能の稽古場を残すその家は、町家の風情を残しながらも階段を上ると空気が一変します。 稽古場仕様とは言え、道路側に稽古場、中の控え奥に能舞台が位置しています。 そのしつらえの繊細な和の建築は研ぎ澄まされた空間の中、木素地を活かした宮大工の技が際立っています。 思えばこの家の所有者のご母堂は女性能楽師としての先駆者であり、社中の方々が謡・舞を稽古されている姿を偲ぶ時に、その気概が今も伝わってくるようで心地良い足拍子も聞こえてきそうです。 何より此処にはかつて幽玄の世界があり、そして今は内も外も静寂の中にあります。